ヴァンピのスパイダーマンは著作権的に大丈夫か?

著作権 コンテンツ制作

ヴァンゆんチャンネルのヴァンピが新たにyoutube チャンネル「spider-maaaaaaan」を開設し、登録者が1,000万人を突破したことで話題になった。

今回は、このチャンネルが著作権的に違法なのかどうかについて深堀する。

結論

結論としては、もしソニー・ピクチャーズ(マーベラス)の許諾を得ていないのであれば、著作権違反を犯している可能性が高い。その上で開き直っているからかなり悪質である。著作権者から訴えられれば刑事民事ともに裁かれることになるだろう。

その論拠について、一つずつ法律と照らし合わせながら道筋を辿って解説していく。

①ベルヌ条約よりアメリカの著作物は日本でも著作権で保護されている

アメリカの著作物なのだから、海を跨いだ国では適用されないと思うだろうか?

この認識は甘い。実際にはベルヌ条約により、加盟国171ヵ国では海を跨いで国際的に著作権の保護対象となることが認められている。アメリカの著作物は日本でも著作権で保護される。

文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約 - Wikipedia

しかし実態として、ベルヌ条約では細かいところまで定まりきれていない。最も大きな問題としては、今回の件を著作権違反の対象とするならば、アメリカの著作権で判定するか日本の著作権で判定するかというところだろう。この部分については両方の可能性があり得る。そこで、今回はアメリカの著作権法で裁かれた場合と、日本の著作権法で裁かれた場合を両方考える。

②日本の著作権法で判定する場合

日本の著作権法はアメリカより厳格である。

著作権法2条1項1号では、著作物とは「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう」と定義されている。ヴァンピに限らずキャラクターのコスプレというものは全て著作権上の検討対象となり得る。

さらに著作権法21条には「著作者は、その著作物を複製する権利を専有する」と記載されている。すなわち、著作者は著作物を複製(コスプレはキャラクターの造形の複製である)する権利を独占できる。

また、著作権法27条には「著作者は、その著作物を翻訳し、編曲し、若しくは変形し、又は脚色し、映画化し、その他翻案する権利を専有する」と記載されている。すなわち、二次創作に関する権利を著作者は独占できる。

一方で、著作権法30条には私的利用を目的として複製することは問題ないとしている。自宅でコスプレを作成して自分で楽しむ分には何も問題ない。また、これが非営利目的で無報酬な場合、上映権の要件も満たさず問題ない。一方、インターネットで公共に配信する場合には、私的利用の要否も満たせず著作権的にアウトになる。ではコスプレはすべて著作権違反なのだろうか?

後の問題は、コスプレの完成度である。以下のように、モノリス法律事務所のページを参照すると”キャラクターデザインの再現度が高い場合は著作権侵害になりうる”とされている。弁護士ドットコムのニュースを見ても同様の書きぶりである。著作物と似ても似つかない場合には問題ない。一方、ヴァンピのスパイダーマンはフルフェイス型であり著作物との類似性が高い。フルフェイスで完全にかぶっている動画などは本家スパイダーマンの衣装と同じに見える。また、8月7日にヴァンピがツイッター(X)で挙げた動画は、スパイダーマン本家に関連するものと誤解されるような内容である。その上で、営利目的でインターネット上に配信している。これは著作権侵害の要素を満たす可能性が高い

参考)以下は”コスプレは著作権違反たりうるか?”についての違反要否について述べた記事。ヴァンピの件について言及したものではないので、誤解なされない様。
https://monolith-law.jp/corporate/cosplay-photo-sns-advertising-use
https://www.bengo4.com/c_18/n_12466/

キャラクター自体に著作権がないことを以て著作権違反たりえないと主張する意見が散見されるが、これは半分認識に誤りがある。何のキャラクターを表現しているか明らかである場合、著作権違反の対象たりえる。サザエさんバスの判例なんかが有名だろう。

スパイダーマンスーツを自宅で着て自分で楽しむ分には、前述の通り著作権法30条で何の問題もない。しかし、本件ではインターネットで不特定多数に向けて配信されており、私的利用の要件は満たせない。

③アメリカの著作権法で判定する場合

アメリカの著作権法では”フェア・ユース(fair use)”が認められており、日本より著作権が緩い。このフェア・ユースに当てはまるならば、アメリカの著作権法では著作権侵害とならない。今回のケースについてこのfair useに当てはまるか考えてみる。

フェア・ユースは教育や研究等の利用目的で著作物を利用する場合、著作権者の許諾を取ることなく利用できるというものである。この該当可否を決める要件は以下の4つである。

利用の目的と特性
著作権のある著作物の性質
著作権のある著作物全体との関連における使用された部分の量および実質性
著作権のある著作物の潜在的市場または価値に対する利用の影響

→①その利用目的について、教育的、研究的、ニュース報道的な要素はヴァンピのチャンネルにはない。即ちフェア・ユースの1つ目の要件を満たせず適応されない。フェア・ユースの対象でない以上、著作権法の対象とされる。アメリカの著作権法でも著作権違反となる可能性が高い

④では誰が訴えるか?

ヴァンピのスパイダーマンチャンネルは著作権違反になり得る可能性が高いということについて深堀してきた。しかし、著作権は本質的に親告罪である。著作権者が訴えない限り、著作物を模倣しようが、著作物そのものをコピーして自分の作品として販売しようが何一つ違法性はない。(対照的に殺人罪等は非親告罪である。被害者やその遺族が訴えなくても逮捕される)

では、スパイダーマンの著作者は誰なのだろうか?

スパイダーマンの権利関係はかなりカオスになっているらしい。RealSoundの”カオスすぎるスパイダーマン周辺の権利”では、1997年頃に経営難に陥ったマーベル社から、ソニー・ピクチャーズは映像化権を買い取っている。その後もソニー・ピクチャーズは権利を手放していないが、ソニーとマーベルで権利を分割して共同制作するなど、権利関係はカオスな様相を呈していることについて言及している。

現在でも恐らくスパイダーマンに関する著作権者の主体はソニー・ピクチャーズにあるものと思われるが、彼の者が著作権侵害として裁判を起こしたり、DMCAに則り動画の削除を要請しなかった場合、著作権違反として何らかの処置を喰らうことはないだろう。しかし、著作権違反で訴えられれば、どんな形であれヴァンピ側が敗訴する可能性が高い。ソニー・ピクチャーズは日本法人もある大きな企業なので恐らくは日本の著作権法で争うことになるだろうが、もしアメリカ本社から訴えるならば、これはベルヌ条約の判例として裁判的には面白みのあるものになる。

現実的なところで言えば、ソニー・ピクチャーズが気づいてYoutubeに著作権侵害の申し立てを行って動画がぜんぶ削除されるか、ソニー・ピクチャーズが何もアクションを起こさないかの二択になると予想される。著作権系は許容すると悪意ある人間の行為がどんどんエスカレートしていくので、しっかりと対応することをお勧めしたいところである。

尚、色々と書いてきたが、もしヴァンピが個人的にソニー・ピクチャーズ(マーベル)社と著作権を許諾する合意契約を結んでいた場合、著作権が親告罪である以上、何の問題もない。

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